ジュエリーの基礎知識

ラピスラズリにマラカイト、シンシャ。顔料になる鉱物5選と代表的な絵画

ダイヤモンドは医療用のメスに。
フローライトはカメラのレンズに。

実は宝石以外にも、鉱物はさまざまな用途で用いられています。

顔料もそのひとつ。
鉱物顔料は古くから絵の具の素材として重宝されてきました。

今回は顔料になる鉱物について
顔料の作り方や、有名な「フェルメール・ブルー」をはじめとした鉱物を用いた絵画をご紹介します。

鉱物顔料を用いた絵の具の作り方

天然鉱物を砕いて作られるこの鉱物顔料は、現代でも絵具の素材として使用されています。
顔料の基本の作り方は以下の通り。

  1. 鉱物を砕く
  2. 目的の粒子の荒さまで整える
  3. 定着剤と混ぜ合わせる

もう少し複雑な工程を必要とすることもあります。
たとえばラピスラズリを原料とする「ウルトラマリン」。

高価なことで知られている顔料ですが、純度の高い青を出すためには技術を要します。

ラピスラズリを粉砕した後、砕いたものをそのまま使用すると、濃い青ではなく薄く灰色がかった青色となるためです。

これはおもに、ラピスラズリの原石の質によるもの
濃い青を示す宝石質のラピスラズリを除き、一般的なラピスラズリはさまざまな鉱物が混ざり合ってできているため白っぽい部分や灰色がかった部分があるからです。

この灰色を除去するために、不純物を取り去り青色粒子のみを残すといった工程が必要となるのです。

また、鉱物顔料は粒子の荒さによってもその色を変えます
粒子は細かくなるほど白く見え、粒子が大きくなるほど明度が高くなります。
そのため、単に砕くのではなく、どの程度まで粒子を整える必要があるかを考えることも重要。

目的の荒さまで整えた後は、定着剤と混ぜ合わせます。

顔料そのものには接着性がないため、膠液(にかわえき)や油など、さまざまな定着剤と混ぜ合わせることで絵の具として活用できるようになるのです。

このように、鉱物の性質にあわせた適切な手順で鉱物顔料が生み出されるのです。

代表的な鉱物顔料5選。有名な「フェルメール・ブルー」とは

数々の芸術家を魅了した「ウルトラマリン」以外に、比較的歴史の浅いスギライトなども鉱物顔料として用いられています。
ここでは鉱物顔料として歴史のある鉱物を5種類取り上げてご紹介します。

ラピスラズリ(瑠璃)

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「天然ウルトラマリン」とも呼ばれる、たいへん貴重な顔料として重宝されてきたラピスラズリ
そのため、中世ヨーロッパでもキリストや聖母マリアのローブを着色する際に用いる、高価な顔料として扱われていたのです。

また、オランダの画家フェルメールが「天然ウルトラマリン」を多用したことから、「フェルメール・ブルー」とも呼ばれます。

代表的な絵画:

  • 「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」ヨハネス・フェルメール(1656年頃)
  • 「牛乳を注ぐ女」ヨハネス・フェルメール(1657-1658年頃)
  • 「受胎告知」フラ・アンジェリコ(1425-1428年頃)

アズライト(藍銅鉱)

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ルネサンス期のヨーロッパで青い顔料といえばアズライトでした。

というのも、金の価値を上回るとされていたラピスラズリの代用品として、アズライトの顔料がポピュラーであったためです。

日本でも古くからアズライトは用いられており、国宝「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」では花の色の着色に使用されています。

しかし、粉末状にしてしまうと緑のマラカイトに変化しやすくなってしまうことから、年代を経て空の青が緑へ変化してしまった「キリストへの哀悼」のような絵画もあります。

岩絵具としての名称は「岩群青(ぐんじょう)」です。

代表的な絵画:

  • 「キリストへの哀悼」ジョット(1305年)
  • 「燕子花図屏風」尾形光琳(18世紀頃)
  • 高松塚古墳の壁画(694-710年頃)

マラカイト(孔雀石)

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宝飾や彫刻品だけでなく、アイシャドウやガラスの着色に使用されてきたマラカイト

顔料としても歴史があり、7世紀から8世紀頃に描かれた高松塚古墳の西壁女子群像について、4人の女性の色鮮やかな衣装には、マラカイト、アズライト、そしてシナバーが用いられていると2022年に分析調査で明らかになりました。

燕子花図屏風では、葉の色の着色に用いられています。

岩絵具の名称は「緑青(ろくしょう)」。

代表的な絵画:

  • 「燕子花図屏風」尾形光琳(18世紀頃)
  • 高松塚古墳の壁画(694-710年頃)

シナバー(辰砂)

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神社の鳥居や橋、朱肉に赤い漆塗りの器。
日本の「朱」は、「丹(に)」によって色付けされてきました。

他の鉱物顔料にはない鮮やかな赤色が特徴的です。

代表的な絵画:

  • 高松塚古墳の壁画(694-710年頃)
  • 秘儀荘の壁画「ディオニソスの儀式」(紀元前1世紀頃)

ヘマタイト(赤鉄鉱)

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黒い宝石の代表格であるヘマタイトは、黒ではなく赤茶色の顔料の素材。

約17,000年前に描かれたラスコー洞窟壁画にヘマタイトを用いた形跡が見られます。
酸化鉄は空気中では安定していることから、年月を経ても変化しにくいため現在でもその色彩を残しています。

また、「ベンガラ」として陶芸の絵付けの顔料としても用いられます。

代表的な絵画:

  • ラスコー洞窟壁画(約17,000年前)
  • アルタミラ洞窟壁画(約14,000年前)

POINT

  • 鉱物は絵の具の顔料の素材としても活用されている
  • ラピスラズリを原料とする「ウルトラマリン」は高価であり、フェルメールの絵画に多用されている
  • 代表的な鉱物顔料はラピスラズリ、アズライト、マラカイト、シナバー、ヘマタイト

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