ルビーのような赤も、サファイアのような青も。
「スピネル(spinel)」という宝石は、想像されるよりもはるか多くの色を持つ宝石。
硬度もあり美しいこの宝石は、ある有名なジュエリーにも留められています。
今回はスピネルの基礎知識。
誕生石として、あるいは不思議な逸話を持つ宝石として。
スピネルに秘められた魅力をお届けします。
スピネルの意味、和名、誕生月は?
スピネルの意味と和名
ラテン語で「棘(とげ)」を意味する「spinam」。
ダイヤモンドと同じ正八面体のため、原石に角があることが由来となったスピネル。
モース硬度は8。
立方晶系の酸化鉱物。
和名は「尖晶石(せんしょうせき)」。
和名も英名同様、原石の特徴的な形状が由来となっています。
主な産出地はミャンマー、スリランカ。
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スピネルの石言葉
スピネルの石言葉は「内面の充実と安全」。
向上心を高め努力を支えると信じられており、お守りのように身につける方も。
8月の誕生石
2021年に新しく誕生石に追加されたスピネル。
ペリドット、サードニクスと並ぶ、8月の誕生石となりました。
ペリドットはグリーン、サードニクスはオレンジ〜レッドと色の幅が限られているなか、カラーバリエーションに富んだスピネルを選ばれる方もこれからきっと多くなるでしょう。
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ルビーと混同されてきたスピネル。「黒太子のルビー」とは
スピネルの歴史と発見
スピネルの発見は紀元前100年にまで遡ります。
そのため宝石のなかでも古い歴史を持つといえるのですが、宝石「スピネル」が認知されたのはごく最近。
現在のような機械を使用して屈折率や成分を調査するといった鑑別技術はない時代。
宝石を「色で」識別する手法が主流だったのです。
つまり、赤い宝石はルビー、青い宝石はサファイアと、スピネルに限らず多くの宝石が正しく認識されないままジュエリーに仕立てられることも珍しくありませんでした。
なかでもいちばん有名な逸話が「黒太子のルビー」。
イギリスの王権を象徴するクラウン・ジュエルのひとつ、「大英帝国王冠」の正面に燦然と輝く大きな赤い石。
長年ルビーと信じられてきたこの「黒太子のルビー」は、実はスピネルであったのです。
それが発覚したのが20世紀のこと。
このほかにもエリザベス女王の「チムール・ルビー」、エカチェリーナII世の「王冠」などがスピネルであったと判明。
宝石をよく知らない方にとって「スピネルはルビーの偽物」という印象を受けるかもしれません。
しかし、「黒太子のルビー」は140ct(約28g)、そしてエカチェリーナII世の「王冠」は398.72ct(約80g)と規格外の大きさ、かつ優れた赤い色と輝きを示すスピネルもまた、希少な宝石であることには間違いないのです。
いまでは「歴史上最も過小評価された宝石」と称されるほど、あらためて素晴らしい宝石として評価を受けています。
スピネルのカラーバリエーションと「クロム」
レッドスピネルとルビーにはもうひとつ共通点があります。
キーワードは「クロム」。
通常、宝石は純粋な状態において無色透明を示します。
さまざまな不純物が混入することにより、多様な色や模様をみせてくれるのですが、そのひとつが「クロム」。
レッドスピネルとルビーの赤い色は、このクロムが混入することにより発色。
しかし、クロムはすべての宝石で赤を示す訳ではなく、エメラルドのグリーンはクロム由来と、鉱物の奥深さが垣間みえますね。
スピネルのカラーバリエーションは、レッド以外にブルー、パープル、オレンジ、グリーンにブラックがあり、もちろん透明なスピネルも存在します。
取り扱い時の注意点は?
硬度は8、宝石のなかでも高い硬度のスピネル。
スピネル自体は比較的強い宝石ですが、他の宝石とぶつけてしまうとその宝石が破損してしまう恐れがあるため、保管時・使用時ともに注意を払いましょう。
使用後はセーム革などの柔らかい布で汚れを拭うだけでも綺麗になります。
中性洗剤を溶かしたぬるま湯で洗うのもひとつです。
POINT
- 数千年にわたり、ルビーと混同されてきたスピネル
- 2021年には8月の誕生石に追加
- 「黒太子のルビー」・エリザベス女王「チムール・ルビー」・エカチェリーナII世の「王冠」はルビーではなくレッドスピネル
- カラーバリエーションはレッド・ブルー・パープル・オレンジ・グリーン・ブラック
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大学卒業後、ジュエリー専門学校にてメイキングとデザインを学ぶ。ジュエリーセレクトショップ・百貨店にて販売員経験あり。あなたとジュエリー・アクセサリーとの距離を縮める記事をお届けします。