充実した夏だった。と振り返れるくらいには、私の気持ちはもう秋にいる。変わりゆく雲のかたちや風の音に、寒くなることへの憂鬱さ以上に楽しみを見出すことができているのは、心待ちにしている旅の予定があるからかもしれない。
ファリエロサルティのストール
この秋私は二つ海外旅行を予定していて、その一つは数日後に出発。ちょうど旅の支度を始めたところで、この文章を書いている。
今度の旅行は短い一人旅かつ近場なのでリュック一つで行くのだけど、その少ない荷物でも持っていこうと考えているのが、ファリエロサルティ(Faliero Sarti)のストールだ。
ファリエロサルティは、イタリアで1949年創業の老舗テキスタイルメーカー。同名のオリジナルブランドを展開しており、天然繊維を中心とした上質な素材によるラグジュアリーなストールが人気を集めている。
私はこのブランドのストールを一枚持っていて、それは6年前新婚旅行へ行く時に購入したものだった。23歳の私が三越で手に取ったのは、カシミヤシルクの大判ストール。赤色の無地。数万円もするストールは当時の私には背伸びした買い物だったし、実際ちょっと無理をして買った覚えがあるが、我ながら良いセンスだと思う。
まだ見ぬ景色に重ねた色
良いセンスだと書きつつ、時々何故赤にしたのだろうと考える。だって赤って、使いづらい。同じ値段を出すなら、黒やグレー、ベージュの方が使いやすかっただろうに。あるいはファリエロサルティはテキスタイルメーカーらしくプリントも可愛いので、柄物を選ぶという選択肢もあったはずだ。
しかしその答えは、新婚旅行の写真の中にあった。
このストールを買った時、私はきっとその赤色に、新婚旅行先のインドへのワクワクを重ねていたのだ。写真でしか見たことのない景色……それはつまり煙たい空の青や、タージマハルの深い白、輝く太陽の黄色に、この赤が映えるだろうなと期待して。
そして実際ファリエロサルティの赤は、すごく映えていたと思う。旅先で購入したターコイズのブルーともよく似合っていて(私は赤色と水色の組み合わせが大好き)記憶の中の景色を鮮やかに彩ってくれている。
旅だからこそ良いストールを
そしてファリエロサルティのストールのもっとも優れた点は、やはりその肌触りの良さだ。カシミヤシルクの素材は、素肌を直接包みたいと感じるほど気持ちが良い。また空気をたっぷりと含むので、薄さのわりにボリュームが出てスタイリングしやすいし、それでいて軽やか。もちろん暖かい。上品な透け感と優しい色合いも、気分をぐっと盛り上げてくれる。
こういうストールこそ、旅先に一つ持っておくといいと思う。飛行機での体温調節はもちろん、サッと巻けるストールはなんだか肩の力を抜いた大人のお洒落を実現してくれる気がして、旅先での限られたスタイリングに良いスパイスを与えてくれる気がする。小さく畳めるところも、すごく好き。
今も赤いストールに包まれながらこれを書き、そして次の旅先に想いを馳せている。異国の秋の空に、今度この赤色はどう映るだろう?あの頃と同じように、ワクワクした気持ちだ。
この記事を読んだ人は、こんな記事も読んでいます
芸術大学卒のフリーランスライター。AJINOMOTO PARK 主催の投稿コンテスト、新しい働き方LAB主催の書きものコンテストなどで、エッセイ入賞。ピアノ講師でもあり、画家の妻としての一面も持つ。ここでは、暮らしのなかで見つけた 美しさ にまつわるエッセイをお届けします。