コラム

【宝石の逸話】マリー・ルイーズの王冠:ナポレオンが贈ったパリュールジュエリー

幅広い収蔵品が収められているアメリカのスミソニアン博物館群。

19ある博物館のうち、国立自然史博物館には化石や鉱石、岩石が収められています。

ジュエリーの展示もあり、あの有名なホープ・ダイヤモンドも展示物のひとつ。

マリー・ルイーズの王冠」は、1971年にマージョリー・メリウェザー・ポストによって寄贈。

実はこの王冠に最初に留められていたのはターコイズではなく、エメラルドでした。

なぜエメラルドが外され、ターコイズが代わりにセッティングされたのでしょう。

今回は「マリー・ルイーズの王冠」について。
ヴァンクリーフ&アーペルも関わった、特別なジュエリーとは。

ナポレオンからマリー・ルイーズへ贈られた王冠

 

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マリー・ルイーズの王冠」との名の通り、マリー・ルイーズのために制作された王冠。
この王冠はフランス皇帝ナポレオンⅠ世との婚姻の際、ナポレオンⅠ世がマリー・ルイーズに贈ったジュエリーのひとつでした。

マリー・ルイーズは神聖ローマ帝国の皇帝フランツ2世(後のオーストリア皇帝)の長女。家柄を望まれてナポレオンの2番目の妻となった人物です。

パリュールだったマリー・ルイーズの王冠

台座はゴールドシルバー

1,006個のオールドマインカットのダイヤモンド。
総カラット数はなんと700ct以上

センターには12ctのエメラルドとオーバル、ペアシェイプなど様々なカットの計79個のエメラルドがセッティング。

プラチナが発見される前の、金銀細工が盛んだった時代。

そんな精巧な技術力で紡がれた王冠の土台は、デザインも唐草や渦巻きなど自然から影響を受けたヴィクトリアンらしく、豪華絢爛な印象を受けますね。

素晴らしき技術と美しさの結晶であるこの王冠は、実は「パリュール」として制作されました。
パリュールとは、ジュエリーのセットを指します。

ナポレオンⅠ世が職人に命じ、ヨーロッパ各地を探し集めた高品質のエメラルドとダイヤモンドの数々は、王冠以外にネックレスとイヤリング、バックルを彩る宝石となったのです。

現在ではネックレスとイヤリングのみ、当時の姿のままフランスのルーブル美術館にて展示されています。

 

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いつターコイズの王冠に?ヴァンクリーフ&アーペルとの関係

では王冠とバックルは、どのようにしてその姿を変えていったのでしょう。
直接的な原因となったのはヴァンクリーフ&アーペルがこの王冠を手に入れたことです。

1952年、ヴァンクリーフ&アーペルは王冠とバックルを購入。

元々マリー・ルイーズの個人資産であったパリュールたちは、彼女の死後いく人かの親族に相続され、ヴァンクリーフ&アーペルに売却されました。

購入してから数年間はショーウィンドウに飾るなど、エメラルドが輝く王冠として、制作当時の姿をそのまま残していました。

しかし、1954年からエメラルドの取り外しが行われるようになったのです。

上質なエメラルドに焦がれたヴァンクリーフ&アーペルの顧客が、エメラルドを取り出して個別のジュエリーに作り変えることを望んだことが理由のひとつとされています。

エメラルドがひとつ外されるたびに、ターコイズに置き換わっていきました。
そして1962年にはすべてのエメラルドがペルシア産のターコイズへと姿を変えたのです。

マージョリー・メリウェザー・ポストとスミソニアン

現在、スミソニアン博物館群のひとつである国立自然史博物館に展示されている「マリー・ルイーズの王冠」。

ヴァンクリーフ&アーペルからさらに一人の女性の手を経て寄贈されました。

その女性の名はマージョリー・メリウェザー・ポスト

実業家であり、アメリカで最も裕福な女性としてその名を轟かせていた彼女は、1971年にヴァンクリーフ&アーペルから王冠を買い取ったのです。

マージョリー・メリウェザー・ポストは「マリー・ルイーズの王冠」以外にも、「ナポレオンのダイヤモンドネックレス」や「ブルーハート・ダイヤモンド」といった主役級の宝飾品の数々をスミソニアン博物館に寄贈しています。

POINT

  • 「マリー・ルイーズの王冠」はナポレオンからマリー・ルイーズへの婚姻の祝い品のひとつ
  • 1954年からヴァンクリーフ&アーペルの手によってエメラルドの王冠からターコイズの王冠へと作り変えられた
  • マージョリー・メリウェザー・ポストは「マリー・ルイーズの王冠」など数々の宝飾品をスミソニアン博物館に寄贈している

制作当時の姿ではないものの、充分に人々の心を奪うその美しさ。

そしてその歴史的価値をもより楽しめるようにと、王冠から外されたエメラルドを一点でも多く取り戻そうと博物館は活動を行なっています。

いつか外されたエメラルドと王冠の展示をみれる日がくることを、きっと多くの人が心待ちにしていることでしょう。