「マスク持った?」のない生活
玄関先での夫との「マスク持った?」が、なくなった。3月13日から、マスク着用が個人と事業者の判断となり、その範囲内であれば、マスクなしでの生活が基本となる。およそ3年ぶり。ほんとうに久しぶりの感覚だ。もちろん個々の判断なので着ける人も着けない人もいるだろうが、私としては同じ時間を過ごす相手が不安を抱かない限り、基本的にはマスクなしで生活をしようと考えている。
さて、そうしてマスクを外した今週。私の中で最も大きな変化は、お化粧の最後に「口紅を選ぶ」という行為が追加されたことだった。
3年ぶりに口紅を差す
ここ数年、正直、口紅をつけることをサボっていた。面倒というか、必要なのか?と疑問に思っていたのだ。好きなモデルさんが「マスクの下でも赤いリップをつけて、自分だけの秘め事のようにして楽しむ」と言っているのを聞いて、素敵だなぁと思う反面、私はそれを習慣にはできないなと感じていた。だから、無色透明の保湿のためだけのリップバームが、ここ3年の私の相棒だった。
久しぶりに口紅を買おうかなと思ったのは、今月に入ってから。マスクをしなくてもいいようになると聞いて、それならと、半分必要に迫られた感じで、でも半分はワクワクした気持ちで、新しく口紅を買ってみようと思ったのだ。
ふらっと入ったお化粧品の店で心惹かれたのは、これまで手に取ったことのないようなカラーの口紅。色の名前はクランベリー。こっくりした赤色が、なんだか大人っぽくて良い。これまで無色透明のリップバームが相棒だったぶん、反動のように濃い色に惹かれたのもあるかもしれない。
クランベリー。この手のカラーは これまでは似合わないと思い込んでいたのだけど、合わせてみたら意外と似合う。唇の真ん中にのせて、あとは優しい色で馴染ませて。これまでにない新しい色の唇は、私そのものを引き立ててくれるように見えた。
私に似合う色の変化
この話には続きがあって、それが面白いエピソードなのだけど、あとで母にこの口紅の話をしたら、まったく同じものを購入していた。そういえば母は、クランベリーのようにこっくりした赤色を、好んでよく使う。無意識に選んでいたけど、これは確かに母っぽいカラーだ。
この3年でもしかすると、私はぐっと母に似てきたのかもしれない。それは性格とか癖とかの話じゃなく、もっと視覚的に。
母と同じ口紅が、似合うようになった。この3年で、私は多分、より良く変わった。母と同じ色の唇で笑いながら、私はなんだかしみじみしたような気持ちになった。
新しい色の唇、新しい色の私
家を出る前、お化粧をして、最後にはマスクでなく口紅を差す。その行為だけで、なんだかにっこりできるような気がする。
オードリー・ヘップバーンは、「美しい唇である為には、美しい言葉を使いなさい」と話した。新しい色の唇が何をしゃべり、どんなことで笑うかは、これからの私次第だ。ちょっとこじつけのようだが、クランベリーの花言葉は「天真爛漫」。たくさんの美しい言葉を この新しい色の唇にのせて、無邪気な笑顔を、唇に浮かべて、新しい色の私を、これからまた見つけていきたい。
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芸術大学卒のフリーランスライター。AJINOMOTO PARK 主催の投稿コンテスト、新しい働き方LAB主催の書きものコンテストなどで、エッセイ入賞。ピアノ講師でもあり、画家の妻としての一面も持つ。ここでは、暮らしのなかで見つけた 美しさ にまつわるエッセイをお届けします。