金木犀が香り、葉が色づき始め、半袖にはもう流石に寒くなると、私はなんだかうきうきしてしまう。秋だ!と、身体中がうれしくなる。そうして無性にお出かけしたくなる。
束の間の秋は楽しい。食べ物はおいしいし、空気が澄んでいて、夜なんかは美しいくらいの静寂だ。ずっと過ごしていたくなる。
でも一番楽しいのはやっぱりこの時期ならではの装いで、私には特に、この季節に持ちたいバッグがあるのだった。
minä perhonen – toribag
鳥をかたどったレザーの鞄。これは、デザイナー皆川明さんによる日本のブランド『ミナペルホネン(minä perhonen)』のものだ。
1995年にスタートしたこのブランド。当時のブランド名はフィンランド語で〈わたし〉を意味する『ミナ(minä)』だったが、2003年、同じくフィンランド語で〈ちょうちょ〉を意味する言葉が加えられ、現在の「ミナペルホネン」となった。蝶の持つ美しい羽のような図案を軽やかにつくっていきたい、という願いのもと、「せめて100年は続くブランド」をテーマにものづくりを続けている。
トリバッグは、ブランドでも特に人気を集めるシリーズだ。
プレス兼デザイナーの長江青さんのデザインにより、2000年春夏に誕生。見たことのない素敵なものをつくりたくてこのバッグをデザインしたのだと、ブランドの公式書籍に載っていた。2000年の発売以降、基本の型はそのままに、シーズン毎にベースの革や色、飾りを変えて、繰り返しつくられている。
靴職人の手でひとつひとつ丁寧につくられているというところが、個人的にはたまらないポイントである。
そのカットや縫製は、伝統ある紳士靴のような佇まいだ。そして目に見立てたボタンや、愛らしい飾りたち……。デザインには遊び心が溢れているのだけど、美しく端正な造りにより、何故だかシックな印象さえ受ける。
すっかり大人になった自分の中の 少女のような部分を、このバッグをとおして私は発見できる。
そしてその絶妙な共存具合に、いつだってドキドキさせられるのだった。
私のトリバッグ、シーピ
私のトリバッグは『ミナ』時代のもの。縁あって自分のもとに来てくれたこの子に、私はブランドへのリスペクトを込めて、フィンランド語で〈羽〉を意味する「シーピ(siipi)」と名付けた。
余談だが、私は自分の持ちものに名前をつけがちである。それは、私がたぶん名前というものが好きだから。(人の名前も沢山声に出したいし、実際そうしている方だ。)名前って愛だと思うので、大切にしたいものにはなるべく良い名前を与えてあげたい。
というわけで、ちょっと変化もしれない自覚は持ちつつも、私は愛を込めて自分のトリバッグをシーピと呼んでいるわけだが、以前こんなことがあった。
京都の『ミナペルホネン』に、シーピを連れて行ったときのこと。店員さんに話しかけられ、シーピというんですと口を滑らせてすぐ(しまった…)と思っていると、その店員さんが言った。「良い名前ですね!実はトリバッグ、名前をつけられる方すごく多いんですよ」。
私だけじゃなくてよかった、という安堵より、みんなやっぱり名前つけちゃうよなぁ、と私はニンマリうれしくなった。やっぱりみんなフィンランド語から名づけているんだろうか?みんなの自慢のトリバッグをぜひ紹介してもらいたい。
……実は私、トリバッグだけでなく「porcupine(ヤマアラシ)」も持っている。通称ハリネズミバッグ。こちらはハリの中に「waterfall」というテキスタイルが覗き、その遊び心がカワイイ。しっぽやお顔も愛嬌があり、このバッグのことも私は大好きだ。なんだか縁起がいい気がするのとサイズ感がちょうどいいので、和装にもよく合わせている。
お察しのとおり もちろん名前をつけていて、この子は「クッカ(kukka)」という。〈花〉を意味するフィンランド語だ。
その時店員さんには言わなかったけれど、いつかクッカも紹介したいと思っている。
VISONの「minä perhonen Museum」へ
さて、先日シーピを連れて、三重県の『VISON(ヴィソン)』へ遊びに行ってきた。
2021年の7月にオープンした日本最大級の商業リゾート施設『VISON』。「さぁ、いのちを喜ばせよう。」をコンセプトに、衣食住の魅力的なお店が揃う。
個人的に『VISON』の最大の見どころは、『ミナペルホネン』初の常設ミュージアムだと思う。
制作の背景や、これまでの数々のテキスタイルの展示。決して広くはない空間ながらぎゅっと詰まったその世界観に、時間を忘れてうっとりしてしまう。
もちろんトリバッグもいた!こちらは白いレザーに青い手描きの模様…たしか長江さん直筆なんじゃなかっただろうか…。先にご紹介したように、トリバッグはやはりシーズンによる個性も魅力のひとつなので、別の子を見るのも面白い。(だけどもちろん、私は私のシーピが好きだ。)
併設されているミュージアムショップの窓には、皆川さんの絵が。三重県の豊かな自然に溶け込むような、鮮やかでリズミカルな生き物たちに、思わず笑みがこぼれる。
ブランドファンの方はぜひ一度訪れてみるといい場所だと思う。
「せめて100年は続くブランド」は、ものに魂を宿すということ
私のトリバッグはちょっと秋っぽいので、この季節に特に持ちたくなるのだけど、持たない時にはインテリアとしても活躍してくれる。
そこが、『ミナペルホネン』のものづくりのすごいところだ。
持って楽しく、見て美しい。呼んで嬉しくなり、ずっとずっと、一緒に過ごしたくなる。
ブランド設立時に皆川さんが紙に書いたという言葉「せめて100年は続くブランド」は、ブランドのいちコンセプトを超えて、ものに魂を宿すような力になっている気がする。
何というか、シーピやクッカは、私にとって「もの」ではないのだ。
生きていないけど、生きているような。本当に心から愛せるような魅力が、彼らにはある。
そんなふうに思えるバッグに出会えたことを幸せに思いつつ、私は今日も「一緒に行こう」と、シーピに声をかけるのだった。
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芸術大学卒のフリーランスライター。AJINOMOTO PARK 主催の投稿コンテスト、新しい働き方LAB主催の書きものコンテストなどで、エッセイ入賞。ピアノ講師でもあり、画家の妻としての一面も持つ。ここでは、暮らしのなかで見つけた 美しさ にまつわるエッセイをお届けします。