「辰砂(しんしゃ)」。
『宝石の国』ではじめて知ったという方もきっと多い鉱物。
鮮やかな深紅の輝きを放ち、古来から珍重されてきました。
今回は辰砂(しんしゃ)の基礎知識についてお届け。
辰砂(しんしゃ)の意味、石言葉は?
辰砂(しんしゃ)の意味と和名
産出地であった中国の「辰州(しんしゅう)」が由来。
辰州は現在の湖南省近辺であり、石炭や亜鉛などの天然資源に恵まれている産業都市として知られています。
モース硬度は2から2半、三方晶系の硫化鉱物。
劈開は三方向に明瞭。
英名は「Cinnabar(シナバー)」。
竜の血を意味するアラビア語とペルシャ語から命名されました。
主な産出地はアメリカ、スペイン、中国。
日本でも古くから産出しており、その歴史は弥生時代にまで遡ります。
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辰砂(しんしゃ)の石言葉
「長寿」「健康」を司る石として尊ばれてきました。
古代中国では不老不死の薬であると考えられ、粉末を飲むということも行われていたようです。
辰砂(しんしゃ)と水銀。賢者の石
辰砂と水銀。毒性を持つ深紅の鉱物とは
『宝石の国』の登場人物、シンシャは体から毒液が出るといった体質から孤立することを選んでいるといった描写がありましたね。
この毒液は「水銀(すいぎん)」を表しています。
塊状で産出する辰砂の表面には、通常水銀の粒が付着。
現在でこそ水銀の持つ強い毒性は知られていますが、薬や顔料の原料、金属の精錬にも重用されたのです。
しかし、辰砂と共生する水銀は、一般的に知られている水銀とは少し異なります。
辰砂と共生するのは「硫化水銀(りゅうかすいぎん)」と呼ばれるもの。
赤色を示し、神社の塗装や古墳の装飾にも使われています。
自然界の水銀の大半が、この硫黄との化合物である硫化水銀とされています。
一方、私たちが水銀といって思い浮かべるのが「メチル水銀」。
白色を示し、環境汚染や人体にも影響を及ぼすことで知られています。
または、水銀といえば銀色の液体であると考えられる方もいらっしゃるかもしれません。
これは上記で挙げた二つの水銀とは異なる「金属水銀」と呼ばれるもの。
一昔前の体温計などに用いられていました。
このように「水銀」といってもさまざまな種類があります。
辰砂と共生する硫化水銀はメチル水銀ほど毒性は高くないものの、気化した硫化水銀を吸収すると呼吸困難や肺水腫などを引き起こし、最悪の場合には死に至ることもあります。
辰砂と賢者の石
古代中国では不老不死の薬であると考えられていた辰砂。
「錬丹術(れんたんじゅつ)」という辰砂を原料とする丹薬を調合する術があるなど、この深紅の石に人々は永遠の命の輝きをみていました。
実際のところは不老不死どころか、命を危険に晒してしまうものであるのにも関わらず。
中世ヨーロッパの「賢者の石」も、辰砂を指していたのではないかという説があります。
元々賢者の石とは、卑金属を貴金属に変える触媒を指していました。
卑金属を貴金属に変えられるなら、人に永遠の命を与えることも可能だという考えで、人々は賢者の石を求めたのです。
実際には辰砂にそのような力はなく、また賢者の石と考えられてきた物質もほかにたくさんありますが、『ハリーポッターと賢者の石』にあったように賢者の石といえば赤い石(辰砂)というイメージは西洋を中心に定着しているようです。
日本の辰砂
日本では「丹(たん)」と呼ばれ、弥生時代から産出していたと考えられています。
その根拠となるのが中国の歴史書である「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」。
「魏志倭人伝」には、邪馬台国で辰砂が産出することを示す記述があります。
また、辰砂は顔料としてだけでなく、薬品や防腐剤としての役割を果たしていたともされています。
取り扱い時の注意点は?
宝石としてカットされることが少ない辰砂。
硬度が低いため、衝撃は厳禁。
ルースケースに入れ、さらにケース内で原石が動かないよう固定しておくのがベター。
壊れやすいため、持ち運びの際はより注意が必要です。
POINT
- 辰砂と共生するのは「硫化水銀(りゅうかすいぎん)」であり、一般的に知られている水銀とは性質が異なる
- 日本でも弥生時代から産出していたことが「魏志倭人伝」に記載あり
- 硬度がとても低く、劈開も三方向に明瞭であるため衝撃は避けること
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大学卒業後、ジュエリー専門学校にてメイキングとデザインを学ぶ。ジュエリーセレクトショップ・百貨店にて販売員経験あり。あなたとジュエリー・アクセサリーとの距離を縮める記事をお届けします。