実は、10月が来るのを心待ちにしていた。
なぜかというと、味噌が完成する月だったから。私たち夫婦は1月に、人生で初めて味噌を仕込んだのだった。
手作り味噌で食欲の秋
仕事のご縁で1月に訪れた福島。「美味しい味噌を作れるよ」とお誘いいただき、滞在中に味噌作りワークショップに参加した。
麹や大豆を混ぜ、つぶし、バケツに敷き詰め、重石を置いて待つこと9ヶ月。「味噌1号」と名付けた私たちの味噌が、ようやく完成した。
色も香りも、最初の状態から驚くほど深みを増していて、うん、これは間違いなく味噌。そのまま舐めてみると、脳が思わずびっくりするほど美味しい。
手間と時間をかけたからこそ、価値が何倍にもなったのだと思う。この味噌の味により、私は食欲の秋のアクセルをギュンと踏み、やや食べ過ぎなくらい食を楽しんでいるのだった。
夫の作る煮込み料理は特にお気に入り。味噌が溶け出したスープまで余すことなく楽しめる。他には、例えば焼きおにぎり。
また、料理に使うたび、味噌そのままをついぺろりとつまみ食いしてしまう。そしてやっぱり、それが一番美味しくもある。
手作りした味噌を見て、良い茶色だな、と思う。茶色に綺麗な色だというイメージはあまりなかったのだけど、こんなにも美しい色なんだっけ?
この茶色はなんというか、豊かな表情をしている。
潰しきれなかった大豆もちらほら顔を出し、その完璧でない感じが、なんとも愛おしい。既製品では得られないぬくもりが、この味噌、いや「味噌1号」にはたっぷりと詰まっているのだ。
そして私は同時に、この秋最初のお買い物のことを思い出した。
カラフルな茶色のウールベスト
お気に入りのお洋服屋さんから先月、「るうちゃんにぴったりのウールのベストがありますよ!」と連絡が来た。
実は私はベストが大好きで、すでにたくさん持っているのでどうかなと思ったのだが、一目で気に入ってしまい、今年の秋初めてのお買い物に。
縮絨加工されたウール素材の生地は、ふわふわと軽くてやわらか。尾州の英式紡績機でつくられたものらしく、手紡ぎに近いあたたかな風合いが嬉しい。
グレーとブラウンの2色展開だったが、店員さんが手渡してくれたのは迷いなくブラウン。私も、今年の自分にはブラウンだなと思った。
ハリのある生地なのに毛足がやや長く、よく見ると赤やベージュの細い繊維が混じっている。これはただの茶色ではなく、カラフルな茶色。
手作り味噌同様、色の向こう側に広がる世界観に、私は袖を通すたびにワクワクしてしまうのだった。
今年の秋はカラフルな茶色
私の今年の秋は、カラフルな茶色。これに気がついてから庭の鉢に目を向けると、土もまた、来たる季節に向けて表情豊かに呼吸しているのだった。
茶色という一見地味に見える色が、実はこんなにも豊かでカラフルな世界を持っていることに気づいてから、私は日常の小さな瞬間にもより敏感になったように思う。
味噌の味わいや、ウールベストの柔らかな温かさ、土の息吹。これらの小さな触覚的な喜びをひとつひとつ確かめることで、ただ過ぎていく時間が、心に刻まれる豊かなものへと変わっていく。
人生の豊かさは、大きな出来事や派手なものだけに宿るのではなく、こうした日常の中に隠れている。それに気づき、意識して味わうことで、よりマインドフルな生き方ができるのかもしれない。
あなたの秋は、何色ですか?
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芸術大学卒のフリーランスライター。AJINOMOTO PARK 主催の投稿コンテスト、新しい働き方LAB主催の書きものコンテストなどで、エッセイ入賞。ピアノ講師でもあり、画家の妻としての一面も持つ。ここでは、暮らしのなかで見つけた 美しさ にまつわるエッセイをお届けします。