コラム

朝ドラ「虎に翼」衣装:道を切り拓いてきた寅子(伊藤沙莉)や花江、よねの生き方と服装

2024年前期NHK連続テレビ小説、通称朝ドラ「虎に翼」。

日本初の女性弁護士で後に裁判官となった三淵嘉子さんをモデルに、困難な時代に道を切り拓いた情熱あふれる法曹たちのリーガルエンターテインメントです。

主人公の寅子を演じる伊藤沙莉さんがユニークな個性を発揮してドラマの空気感を牽引。ストーリーも主張とエンタメを両立させたチャレンジングな面白さで話題沸騰の朝ドラとなりました。

朝ドラでおなじみの戦前~戦後の衣装についてはこれまでも書いていますし、関連記事もたくさんネットにあがっているので、今回はちょっと登場人物の生き方と服装について振り返ってみましょう。

対比でもあり並走者でもある、寅子と花江の「ニコイチ」感

学生服にモダンな和装──ふたりのニコイチ衣装

ドラマ当初から、小さな対立軸のようにも見えた主人公の寅子(伊藤沙莉)と親友の花江(森田望智さん)。「進学・就職」と「結婚」…ふたりの方向性は違っていました。

声も、寅子は伊藤沙莉さんの個性的なハスキーヴォイスに対して、花江はこれまた独特のキュートな喋り方。森田望智さん、明らかに花江というキャラクターを作っていましたよね。

でもこの2人、衣装という視点でみると、ドラマ前半はいつも似た格好、「ニコイチ」(二人でひとり、一緒の間柄)を感じさせるものでした。

学生服、そして普段着の和装。当時の恵まれたお嬢さん・奥さんの服装です。

銘仙(めいせん)は、昭和初期にはモダンなデザインで大流行した織物。私たちがプリントのワンピースを着るような感覚だったと思います。

寅子は黄色、オレンジ、辛子色などの黄色系メイン(虎っぽい?色調)。花江はその名の通り花を思わせるピンク系。色違いのデュオのようでしたね。

そしてふたりとも戦争中はもんぺを着て、やがて戦争未亡人に。母/姑のはるが亡くなったときの喪服の二人の後ろ姿は、双子のように見えました。

戦前にウエディングドレス!花江の最先端の心意気は戦後の寅子まで

寅子は結婚のとき、花江のウエディングベールを身に着けます。

勉強では最先端だった寅子も、恋愛や人間関係の機微については疎いタイプ。花江は寅子の兄・直道さんを見初めて自由意志を貫いた点では最先端。

ちなみに1929年の婦人雑誌には洋装花嫁としてウエディングドレスの紹介記事が載っていたそう。花江ちゃんは流行最先端だったということですよね。

むしろ「社会的地位のために…」と結婚した寅子のほうが旧時代的だしマインドも幼い感じでした(結果、優三さんと結婚したのはよかったけれど)。

結局、ふたりはある部分最先端、ある部分旧弊。対比はありながらも、枠の中の大同小異な者だったのかもしれません。

寅子と花江の衣装の「違い」が目立ってきたのは戦後。

寅子は裁判官、働く女性としてのスーツ姿中心に。チェックの生地が多いのは、ものごとの経緯をはっきり見極める裁判官らしい意匠なのかも。

いっぽう家庭に生きる花江は姑・はるの着物を着るようになります。

それぞれの生きる道が現実としてくっきりと分かれていったのが衣装でも伝わってきました。

それでも、悩んだときは助け合う2人。前半のニコイチ感があったからこそ、親友として心はつながっている、離れていても並走者として生きているのが見る側にもわかりますよね。

どちらの人生をも尊び肯定するストーリーだからこそ多くの人の共感を呼んだのではないでしょうか。

花嫁のベールは、寅子が星航一(岡田将生さん)と“再婚”するときにも登場。このふたりの関係性も新しい家族のスタイルですが、それを飾ってくれたアイテムでした。

よねの生き方。「違和感」から「日常」へ

メンズ服に身を包む斬新なキャラクターで視聴者の心を掴んだ山田よね(土居志央梨さん)。

よねの登場時は、水の江滝子さんなど「男装の麗人」がブームとなっていた時代でもありました。

でもよねは、ファッションではなく生き方としてこの服装を選んだのです(絶妙に、かっこよすぎない、むしろ違和感、異質感の強いたたずまいを醸し出した土居さんの演技、素晴らしい)。

よねのスタイルや性格は常識外れ、異色とされ、戦前の司法試験にも落ちてしまいます。

でも戦後、よねの生存がわかったとき…みんなが貧しく、着の身着のままとなった時代、よねの姿は以前ほど目立って見えませんでした。

そして(こまやかに人としての成長は描かれていましたが)「よねさんのままで」司法試験に合格、弁護士に!

よねの服装ポリシーは変わらないのに、戦後のさまざまな人々の中でよねのスタイルもワンノヴゼムとして受け入れられるようになった…それは視聴者が「何なんだろう、この人は?」という違和感から日常的な親しみを感じ「よねさん頑張って!」となっていったリアルな心境の変化とも共通しています。

よねを始め、「虎に翼」は、さまざまな人の生き方と社会問題を取り扱っており、どの課題もまずは「より深く知る」ことから始まる…その糸口や過程を私たちにも伝えてくれているような気がします。

「虎に翼」の象徴的な衣装・法服

「虎に翼」のタイトルバックにも使われ、とても印象的な「法服」。

戦前の法服は、聖徳太子の服装を参考にデザインされたそう!独特の和洋折衷感、胸元の唐草模様の刺繍が印象的です。

判事(裁判官)だけでなく検事・弁護士と法曹全員が着用するものでした。判事は「尊厳」を示す深紫。検事は「偽りのない心」を示す深緋。弁護士は「潔白」を示す白と、刺繍の色も違っていたのです。

そして基本的なデザインは決まっているのですが、法服は各人それぞれが百貨店などであつらえて作っていたようです。(お高そう!ですので、戦争を経て現実的に着用が難しくなっていった流れもあったのでしょうね。)

寅子の“再婚式”の際に、明律大学の仲間たち皆があえてこの戦前の「法服」で揃ったのは素敵なはからいでしたね。

明治期以降、日本が欧米に肩を並べる法治国家として必死に頑張った、またそこに女性たちも果敢に挑戦し少しずつ道を切り拓いていった…「虎に翼」ではこの歴史の象徴として、かつての法服を大切に再現して取り扱ったのではないでしょうか。

そして、象徴ゆえどこか法廷劇感もあった戦前の法服から、ここに来て私たちも知っているリアルな裁判の様相へ。ゴール近くになって、原爆裁判という重い裁判を真摯に描くのも「虎に翼」らしい展開だと思うのです。

POINT

  • 「虎に翼」は主張とエンターテインメントを両立させる意欲的な朝ドラ
  • 道を切り拓いた寅子と家庭人として生きる花江は対比でもあり並走者でもある
  • よねの生き方に世間のほうが変わるさまを視聴者もリアルタイムで体感
  • 戦前の法服は「虎に翼」の象徴。最終段階でリアルな裁判の様相に

男女ともにさまざまな生き方を肯定しつつ、女性の一生に起きる問題、そして社会全体の問題にも取り組む…いまの時代の意欲的な朝ドラ「虎に翼」。あと1か月、最後まで見届けたいですね!

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