2023年12月1日に公開された映画「ナポレオン(Napoleon)」。
フランスの英雄として知られるナポレオン・ボナパルト。
「気高い<英雄>か、恐るべき<悪魔>か?」というコピーの通り、フランスを守った英雄ではなく、侵略者として虐殺を繰り返した悪魔としてのナポレオンを映し出しています。
そんな「英雄/悪魔」を語るに欠かせないひとりの女性、「ジョセフィーヌ」。
本作はナポレオン即位後、王妃となるジョセフィーヌに焦点を当てた物語でもあります。
今回は映画「ナポレオン(Napoleon)」衣装について。
ジョセフィーヌのファッションをメインに、未見の方にも楽しめるポイントをお届け。
「ナポレオン」衣装。フランス革命を境に変化するファッション
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マリー・アントワネットの処刑シーンからはじまる本作。
一時はフランスのファッション・リーダーとして名を馳せた王妃の亡き後、現れたのがジョセフィーヌ。
コルセットでウエストを締め上げ、女性的なラインを強調する中世フランスらしい華美なスタイルから、ハイウエストと裾に向けて流れるようなシルエットが特徴のシュミーズドレスといったように、フランス革命前後でファッション様式が大きく変化したのです。
ナポレオンとの再婚前より社交界の華であったジョセフィーヌは、このギリシア時代を思い起こさせるようなシュミーズドレスを好んで着用。
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のちに「エンパイア・スタイル」と呼ばれるこのドレスは、ファッションアイコンであったジョセフィーヌの代名詞に。
豪華なカツラは帽子にとって変わり、髪型はシンプルなまとめ髪がトレンドとなりました。
映画「ナポレオン」のジョセフィーヌ、見るべき3つのポイント
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本作の衣装デザイナーはジャンティ・イェーツ。
「ハウス・オブ・グッチ」でも衣装デザイナーを務めたイェーツがこだわったのは、時代考証を元にした精巧なドレスと、ジョセフィーヌの変化に合わせた衣装づくり。
ナポレオンとの出会いから再婚、そして皇后となるジョセフィーヌは、身分が変わると身につけるジュエリーも豪華なものになっていきます。
ここでは映画を観る上でポイントとなる3つのファションをピックアップ。
死刑のための「ショートヘア」
映画ではじめて登場するジョセフィーヌはショートヘア。
カツラの時代が終わりを迎えている最中とはいえ、女性はまとめられるくらいのロングヘアが一般的。
そんななか、ショートヘアの潔さがジョセフィーヌの美しさをより際立たせていると感じる方も多いのではないでしょうか。
しかし、ジョセフィーヌのこの髪型はおしゃれとしてではなく、彼女が元死刑囚であったことの表れ。
別居中の夫、アレクサンドルが反革命集団と通じていると疑われ、1794年に逮捕。
カルム監獄に収容された夫を解放するための釈放運動の末、ジョセフィーヌも逮捕されてしまうのです。
そしてアレクサンドルが処刑。
髪がギロチンの刃を妨げることがないよう、死刑が目前に迫っていたジョセフィーヌも髪を切ったのです。
ところが、ジョセフィーヌは死の運命から逃れることができました。
1794年7月27日、大勢の死刑囚が解放された「テルミドールのクーデター」。
恐怖政治の終わりを告げるこのクーデターがあと数日、起こるのが遅ければ。
後世にまで語り継がれる「王妃ジョセフィーヌ」は誕生しなかったことでしょう。
ギロチンの象徴としての「チョーカー」
もうひとつ、「ナポレオン」に登場する死の象徴「ギロチン」。
処刑は娯楽のひとつとして数えられ、アートや音楽、そしてファッションのモチーフにもなっていきました。
ギロチンを模ったイヤリングが登場し、そしてチョーカーもギロチンを象徴するアクセサリーだったのです。
チョーカーは「窒息させる」という意味の「choke(チョーク)」が由来であり、発祥は13世紀。
もともと服の襟だったものが独立し、アクセサリーとなったと伝えられています。
19世紀にチョーカーが再流行、1863年に描かれたエドゥアール・マネの『オランピア』では娼婦が着用している様子が描かれています。
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拘束を連想させるチョーカーは、娼婦という逃れられない身分の象徴であるとの考察もあり、その意味ではギロチンのイメージとも合いますよね。
しかし、ナポレオンとの出会いのシーンでジョセフィーヌが身につけたチョーカーは赤。
ギロチンで断首され、血が流れていることの比喩として「赤い」リボンチョーカーが流行したのです。
ここには死をモチーフとして消費するアイロニーが込められています。
死の淵まで身を寄せたであろうジョセフィーヌがそれを行なっていることは、映画を観る上で重要な鍵となりそうです。
新しいファッションとしての「ティアラ」
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「ジョセフィーヌ」というコレクションラインを展開しているショーメ。
ショーメにとって、ジョセフィーヌはメゾンの最初の上客であり、戴冠式に出席した教皇ピウス7世へ贈るのティアラの制作に携わったことが、ジョセフィーヌとの交流の始まりと伝えられています。
戴冠式でナポレオンとジョセフィーヌが身につけたティアラなどの装身具もショーメが手がけたもの。
ショーメが宮廷御用達のジュエラーとなった後、ジョセフィーヌは君主や権力の象徴であったティアラをファッションに取り入れました。
それを見た宮廷の女性たちは真似をしたいがため、ショーメに注文が殺到したのだとか。
「ナポレオン」では身分が変わると身につけるジュエリーも豪華なものになっていくと述べましたが、顕著なものがティアラ。
ネックレスやイヤリングはもちろん、ティアラにも注目してみてくださいね。
POINT
- フランス革命を境に、フランスのモードは大きく変化
- ジョセフィーヌが好んだハイウエストのシュミーズドレスは「エンパイア・スタイル」と呼ばれるように
- ギロチンをモチーフにしたイヤリングや赤いチョーカーが流行
ナポレオンとジョセフィーヌ。
永遠を誓った二人は征服者へと姿を変えたナポレオンの欲望によって引き裂かれ、離婚後、ジョセフィーヌはけして幸せとはいえない結末を迎えます。
英雄を一瞬のうちに魅了するカリスマ性、強い意志を感じる眼差しに、鋭い感性。
女性が声をあげるのを抑制されない時代であれば、彼女の最期はもっと違っていたはずだと、ヴァネッサ・カービー演じるエネルギッシュな「ジョセフィーヌ」をみて思わずにはいられません。
みる人の分だけ真実があるというように、映画「ナポレオン」もたくさんの真実がある物語。
英雄、または悪魔となった男の物語か、情熱的なロマンスを描いた物語か。
あるいは、歴史の中に消え行く女性の声を描いた物語か。
「ナポレオン」は、あなたにとってどんな物語でしょうか。
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大学卒業後、ジュエリー専門学校にてメイキングとデザインを学ぶ。ジュエリーセレクトショップ・百貨店にて販売員経験あり。あなたとジュエリー・アクセサリーとの距離を縮める記事をお届けします。