フォトエッセイ

桜舞う頃、特別な友人との二人旅。伊豆・玉峰館【─Shining Moments:26 ─】

桜の舞う頃、高校時代の友人と伊豆へ行った。これは私にとって、念願の女二人旅。ずっと一緒に過ごしたかった人との、やっと持つことができた時間だった。彼女との思い出と、素敵なお宿について、今日は書いてみようと思う。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

私の友達、萌ちゃんのこと

萌は、その名のとおり芽ぐむ5月生まれの美しい女性で、私の高校時代からの友人である。私は高校時代音楽科に通っていたのだけれど、彼女とはそこで出会った。私はピアノ専攻、彼女は声楽専攻。音楽科は1クラス40人の3年間持ち上がりだが、きっと多くの人がイメージする高校生活とは大きく異なる。友情というよりは、同志のような40人。音楽が生活の中心で、部活動なども基本的にはNG。休憩時間も放課後も練習が最優先だったので、例えば友人と夜遅くまで遊んで帰った記憶だとかが私たちにはない。

今思い返せば少し異質な環境だったけれど、だからこそ同じ環境の中で、その絆は強いものだった。……当時の私はまだ考えも幼くて、同じピアノ専攻の子にはどこかライバル意識が先行してしまい、自然と仲良くなったのは他楽器の子だった。その中で一番仲が良かったのが、声楽の萌ちゃん。すらっと背が高くてカッコよく、でも笑うと可愛くて、そして誰よりも頑張り屋さんだった。ミュージカル女優になるという夢を持ち、そのための努力を惜しまない。声楽のレッスンだけじゃなく、ピアノ、バレエ、ダンスと、なんでもこなしていた。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

彼女は東京に大学進学が決まり、私はそのまま愛知へ。離れていても彼女の存在は特別で、その頃ちょうどLINEが流行り出したこともあって、大学に入りたての頃はずっと萌と連絡を取り合っていたのを覚えている。

それでもやはり、あるいは多くに人がそうであるように、私たちも、次第に疎遠になってしまった。今思い返せばもう少し大人な振る舞いをしたかったけれど、自分のことで精一杯な時期が続いた。きっとその間萌ちゃんには沢山の辛いことがあったけれど、私はそばにいることができなかった。

それでも、大学を卒業してしばらくした時、彼女が舞台の案内をくれた。初めてミュージカルの舞台に立つから、ルーナには観てほしい。私は東京まで出かけて、彼女が舞台の上でキラキラと歌い、踊る姿を観た。帰り道には涙が止まらなくて、ひとしきり泣いた。凍った何かが、その涙で少しだけ溶けていくような感じがした。

その後もなるべく舞台は観に行き、彼女の頑張り続ける姿を見てきた。そして今年、あっという間に私たちは30歳になる。彼女は一つの集大成として、コットンクラブで大きなライブを開催することになった。3月末、桜舞う頃。ずっと全速力で駆け抜け続けてきた彼女が、ふっとその速度を弱める時が来たのかもしれないなと私は思った。

そしてライブ後、お疲れ様会も兼ねて、この旅へ。これだけ長い時間を一緒に過ごしてきたのに、一泊の旅行さえ初めてのことだった。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

伊豆・河津のお宿|玉峰館

東京駅で待ち合わせて、特急「踊り子」で河津へ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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今回、「玉峰館」という創業大正十五年の老舗旅館を予約した。日本ならではの趣深い雰囲気と、モダンでお洒落な雰囲気が共にあるお宿で、しっとりと寛げるような空間。お部屋は、紫綬褒章も受賞したインテリアデザイナー・内田繁氏の設計による露天風呂付きのお部屋で、とても心地良い。こんなお宿に泊まる日がくるなんてと、高校時代を思い返しながらしみじみ。古いお友達と来たからこそ沁みるものがあるような空間だった。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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このお宿は お料理もとても美味しい。味覚でも視覚でも楽しめる お料理に、お酒もすすむ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

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今回のライブの振り返りや近況報告など、当たり障りのない話題から、お酒の力もあり、次第に話が広がっていく。あの時どんなことを思ってた?今互いに何を感じてる?やはり10代の頃一番近くにいた友人は、色々なことを分かってくれていて、会話の中で私はとてもホッとした気持ちになった。きっと萌ちゃんも、そうだったと思う。

「玉峰館」の美しい庭園を見ながら、泣いて笑って。桜の舞う頃、少し冷える空気に、でも心はとても温かかった。

萌は、互いに辛い時も楽しい時も、ずっと家族のような人だった。長い間離れてしまっていたけれど、その時間や距離も関係ないほどしっかりとした友情があるのだということを、再確認できたような旅だった。家族や今仲の良いお友達と行く旅行は もちろん素敵だけれど、古いお友達と互いを確かめるように訪れる温泉旅も、とても良いものだと思う。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

「明日へ」

「玉峰館」のある河津は河津桜で有名だが、4月にはもう散ってしまっている。ただソメイヨシノはギリギリ残ってくれていて、私たちはお宿からの帰り道、少しだけお花見をすることができた。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

ライブの準備で忙しくしていた萌にとって、今年初めてのお花見。「やっと春が来た!」と嬉しそうにしている彼女を、写真に撮らせてもらった。実は私にとっても、この春は一つの転機だ。趣味が転じて、お仕事で人物写真を撮り始めることになった。そんな始まりの春に彼女を撮影できたことは、私にとって大きな意味のあることだった。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ

この写真の彼女の目線は、未来を見ているような気がする。

今回のライブで萌は、MISIAの「明日へ」を歌っていた。
“同じこの空の下 共に向かって行こう 明日へ” ……ライブでそう歌い終えた彼女が、幸せそうに笑っていたのが印象的だった。

雪解けの春、私たちは離れていても、また近い距離で友情を持ち続けていける気がする。違う世界にいても、共に明日へ向かっていきたい。私はきっとこれからも、誰よりも、彼女の明日を想っているのだと思う。

桜も見頃を終えた。でも私たちは、その後の新緑が美しいことを知っている。ずっと夢を追ってきた彼女の未来もまたそうであることを、私たちは無言のうちに分かっていた。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ