およそ3年ぶりに一人旅をした。台湾へ3泊4日。リュックだけ背負って、カメラを提げて。いっしゅんの旅だったけれど、これからの人生に気づきがあったので、今回はその思い出を したためようと思う。
「Nikon D3200」と私
旅の思い出に入る前に、まず私のカメラの話を。
私が持っているデジタル一眼レフカメラは「Nikon D3200」。DXフォーマット(APS-Cサイズ)のエントリー機で、つまりフルサイズ一眼レフに比べてセンサーサイズの小さいカメラだ。ただそのぶんボディが小型軽量で、またDXフォーマットにしては描写力も高いため、2012年の発売から10年経った今も、私はこのカメラをとても気に入っている。
「ルーナは写真をやるといいよ」
発売当初、だから確か私が大学に入ったばかりの頃、そう言ってこのカメラを買い与えてくれたのは父だった。
|18歳の私と「Nikon D3200」
当時は喜んで、Twitterのカメラオフ会に参加してみたり、一人で色々と撮影に出かけてみたりしたのだけど、学生の忙しさにかまけて次第に触らなくなり、ようやくきちんと触り出したのは ここ2年くらい。それもライターを始めた関係で、写真撮影の必要に迫られて…といった理由だ。
ただ、仕事での撮影のために再び使い始めたカメラだけど、触ってみるとなかなかに面白い。この半年くらいはグッと熱量が上がり、レンズを買い足したり撮影の機会を増やしたりと、すっかりハマっているのだった。
撮影を重ねるたび、シャッターを切るたび親密になり、最近では相棒感すら感じる。
そんな中 訪れた、今回の旅行のチャンス。
実際に何を撮るか、どんなものを撮るのが好きか何も分かっていなかったけれど、私はD3200を同行させることにした。
|28歳の私と「Nikon D3200」
見るという行為をよりシャープにする
APS-Cサイズならではのコンパクト感は、旅にぴったりだ。軽くて、ずっと持っていてもあまり疲れない。単焦点レンズをつけてスナップシューターのように撮る使い方も、面白い。
台湾の街を、撮影しながら歩く。あ、あそこの壁いいな。スクーターが多いんだな。雨でも傘の色が綺麗だな。滲む道路もいいな。あいにくの雨だったけど(特に台北は雨が多い)、むしろその景色を私は楽しめていた。
ファインダー越しに街を見つめながら、私は「ルーナは写真をやるといいよ」という父の言葉を思い出した。たぶん父は、私の「この世界を見る」という行為を、よりシャープにしたかったんじゃないだろうか。いっしゅんを捉えようと意識して周りを見ると、普段よりもずっと、自分を取り巻くさまざまな要素に気がつく。
カメラを初めて持った10年前のワクワクを、思い出した。そして改めて考える。自分がどう見るかで、世界の在り方は変わるのだ。
Can I take your picture? 台湾で出会った人々
そしてもう一つ素敵だったのが、旅先で出会った人々を撮影したことだ。
私は先々で出会った人たちに、あなたの写真を撮ってもいいか尋ねてみた。
「Can I take your picture?」
もちろん断られることもあるけど、たいていの人が快く受け入れてくれる。私は人が好きだ。道を案内してくれた人、道端でおしゃべりした人、一緒に夕焼けを見た人。これらの写真をとおして、私のこの旅の思い出はより鮮やかに記憶されている。彼らの笑顔は、そこでしか見ることのできない私の世界だった。
足を運ぶ意味、そこにしかない美しい世界を自分の目で見る意味を、私は写真をとおして思い出した。私はカメラマンではないし、写真の技術だって学び始めたばかり。それでも何気ない瞬間を残す意味は、確かにある気がした。
これってまさに、Shining Momentsなのかもしれない。
でももしかしたら(おおいに矛盾するようだけど)カメラを置いたときこそ その感覚を大切にすべきなのかも。
いつでもファインダーを覗くように、世界を見ていたい。
そこにはきっと、そこにしかない美しい世界が広がっているはずだから。
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芸術大学卒のフリーランスライター。AJINOMOTO PARK 主催の投稿コンテスト、新しい働き方LAB主催の書きものコンテストなどで、エッセイ入賞。ピアノ講師でもあり、画家の妻としての一面も持つ。ここでは、暮らしのなかで見つけた 美しさ にまつわるエッセイをお届けします。