注目のミュージカル映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021年、スティーブン・スピルバーグ監督)。
あまりにも有名なミュージカルの至宝「ウエスト・サイド物語」(舞台:1957年初演、映画:1961年)のリメイク作品です。
オリジナル版へのリスペクトを払いながら、今もなお解決が困難な社会問題をより陰影に富んだ圧倒的映像パワーで作り上げたスピルバーグ監督。
リアリティある新鋭キャストを活かしたエキサイティングな本作は2022年のアカデミー賞7部門にノミネート中です。
今回は映画「ウエスト・サイド・ストーリー」の衣装(衣装デザイン:ポール・タゼウェル)について見てみましょう!
寒色系・暖色系で魅せる「分断の視覚化」
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普遍的なテーマ「分断」がひとめでわかる画面作り
シェイクスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」をモチーフとする「ウエスト・サイド・ストーリー」は、異なる集団の間の愛がテーマ。
白人系移民グループ:ジェッツとプエルトリコ系移民グループ:シャークスの対立が前提になります。
スピルバーグ監督は、この普遍的なテーマを持つ作品こそ、世界の分断が危惧される今改めて必要だと感じたのかもしれないですね。
今回の映画化では、ジェッツ=寒色系、シャークス=暖色系でまとめることで「分断」をひとめでわかるように視覚化していました。
非常に良いと思ったのが、その色使いがいわゆる明るい青!VS赤!(アメリカの国旗のような…)ではなく、どこか陰りのある色使いで、さらに個性も入れた奥行のあるグラデーションになっていること。
例えば寒色系はアクア、ティール、ターコイズ…暖色系はコーラル、プラム、パーシモン…といった色使いです。
まさにバーンスタインの音楽とも通じるブルー&ジャジーでラテンな世界観!
本作では、対立する彼らも皆、都市開発の陰で居場所を失う危うい存在であること、生きていく必死さもより痛烈に描かれています。
階段や柵、金網といったこの世界の厳しい枠組みのようなもの、埃や錆、古い煉瓦といった壊されていくものの色合いとの協奏も感じられるのです。
舞台衣装に強いポール・タゼウェルのデザイン
そんな陰りの中の大胆さ、華麗さ、凄みの見せ方が素晴らしいポール・タゼウェル。アカデミー賞衣装デザイン賞候補です。
演劇やミュージカルの衣装などのキャリアが長く、アフリカ系アメリカ人、ラテン系アメリカ人の多く出演する舞台衣装も手掛けてきたとのこと。「ウエスト・サイド・ストーリー」では特にカラーペチコートの使い方が素敵ですね!
女性陣は堂々とゴージャスに、対してメンズはオリジナル版に比べてスタイリッシュさを犠牲にしてでも当時のリアルに息づくスタイルを重視したように感じました。
1950年代の「不良」らしい革ジャン×デニム、この時代のトレンドだったバイカラー(2配色、日本ではツートンカラーと言われました)使いも効果的に活用しています。
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愛のマリア、光と影のアニータ
前述したように、単に明るく鮮やか…ではなく、映像全体も光と影、陰影の深さが印象に残る「ウエスト・サイド・ストーリー」。
その中で特筆したいのがヒロインのマリア(レイチェル・ゼグラー)とその兄の恋人アニータ(アリアナ・デボース)の衣装です。
無垢な白いドレスから「彼の色」へ。愛の人・マリア
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冒頭で天使のような白いドレスにアニータの赤いベルトをプラスしてもらった主人公・マリア。力強い意志の支えとも、シャークスの印とも、ドラマの行方の暗示ともいえる印象的なベルト!
対立する色の集団があふれる中で出会ったマリアとトニー。無垢なマリア、前科のあるトニーも心はピュア。夜の闇の中、「Tonight」と歌わずにはいられない白き二人です。
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そしてマリアの衣装は物語が進むにつれて、ジェッツの色「寒色系」になっていきます。
仲間との掃除の仕事の赤系エプロンの下に着ているティールブルーのドレスはもう完全にジェッツの色合い。
相手のトニーの方はシャークスの色味が増えてくるのですよね。分断を超えて惹かれ合うふたりの心が衣装でも表現されています。
誇り高く輝かしく深い、光と影の人・アニータ
いっぽうアニータ。オリジナル版ではマリアの兄ベルナルド&アニータのスタイリッシュな紫のコーディネートが非常にインパクトフルでしたが、2021年版の「ウエスト・サイド・ストーリー」では印象をリフレッシュしました。
光と影を想わせる、ブラック~イエロー~ブラック。
ダンスパーティーのブラックにレッドペチコートのドレスは、当時流行の組合せでもあり、よりドラマティックな誇り高さを感じます。
そして本作では縫製の仕事で成功したいという人生プランをより明確に打ち出しているアニータ。
映画中でも屈指のダンスナンバー「America」は、移民たちにとってのアメリカの光と影を陽気にカラフルに歌い踊る曲ですが、中でもアニータのイエローのドレスの輝かしさ!
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筆者の想像ですが、これはアニータ自身が自分のために作った晴れ着という設定なのでは?自分の腕で、アメリカで生き抜いてやるという誇り高き服。
気概に満ちたこのエキサイティングなダンスシーンは、夢を持ってこの地にやってきた移民たちの心の輝きそのもの。スピルバーグ監督は、街に繰り出してすべての人を巻き込む圧倒的なシーンに作り上げています。
そんな輝かしいアニータだからこそ、後半のブラックドレス、憤りからの共感と勇気と衝撃…その人間的な強さ弱さの激流にも心を打たれます。
荒涼感と祝祭感、神々しさ、悲痛さ…全編にわたり光と影の使い方が素晴らしいスピルバーグ監督と撮影監督のヤヌス・カミンスキー。
その物語の光と影を人物像と衣装で担うアニータ、演じるアリアナ・デボーズはアカデミー賞助演女優賞候補となっています。オリジナル版(1961)で受賞したリタ・モレノに続くのか期待したいです。
POINT
- 「ウエスト・サイド・ストーリー」はエキサイティングなリメイク作品
- 分断を「寒色系」「暖色系」でわかりやすく視覚化
- 愛情や心境を衣装でも表現、物語に深みを与えている
すべてを見守るヴァレンティーナ(リタ・モレノ)の衣装がジェッツ×シャークスが淡く溶け合ったようなコーディネートなのも、深いですね。「Somewhere」は彼女が歌うことでより大きな意味を持つ歌になったように感じます。
映画ならではの迫力「ウエスト・サイド・ストーリー」、ぜひ映画館に足を運んでみてください!(ちなみにリタ・モレノがアニタを演じるオリジナル版「ウエスト・サイド物語」も必見です!)
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マーケティングディレクター、ジュエリーに詳しいライター、女性メディアライター、ジュエリーデザイナーなどによる専門チーム。