『棚作った。』
私のLINEに、ピロン、と一言。夫からだ。取材出張で一週間ほど家を空けていた、4月末のことである。また何を始めたんだろう…と思いつつ「なんの?」と送ると同時に写真が届いた。見ると、壁一面覆うようなマス目状の棚。
・・・デカいな。
「了解!」と返してそっとスマホを置く。帰ってからのタスクが出来た。模様替えだ。
さて、プロフィールにも記載しているのだが、私の夫は画家である。現代アートというくくりになるのだろうか。和紙や岩絵具など、日本画材を用いた抽象表現による平面作品を、主に制作している。
この春からは画家一本で生活しているので(それまでは教員もしていた)、夫婦でフリーランスというわけだ。
家で一緒に過ごす時間が多くなって、私はある発見をした。
この夫、やたら物を作る。
多分、画家という性分もあり、基本的に何かを作ることが好きなのだ。机、ハンガーラック、革小物、カーテン・・・思い立ったらすぐ行動の夫。我が家には至るところに、彼の制作物がある。
そういうわけで、今回も、突然、棚が出来た。
だけど、そういえば。
そういえば出張前、私、夫に、ふと言ったわ。「何かもう一つ、棚があったらいいよね〜」と。
我が家は、本が多い。
だから既存の本棚では間に合わなくて、平積みになってしまうので、どうしてもごちゃっと見えてしまうことを残念に思っていた。特にここ数ヶ月、おうちで過ごす時間がメインとなり、「生活をお気に入りにする」重要性についてよくよく考えていたところだったのだ。
5×5マスの構造は、まさに理想通り。
…ああ、言い出しっぺは、私だったのか。
だけどまさか、作ってしまうとは。それも私がいない間に。
私が言って、夫が動く。これは我が家のあるあるで、いつもこうして、良い変化が生活にもたらされるのだった。
出来上がった25マスを、お互いの「好き」で埋めていく。
画集。詩集。絵本。花瓶。
ハーマンカードンのスピーカーでも、ひとマス使おう。
お気に入りのものたちが、与えられたマスの中で、今までよりきらきら輝いているように思える。
ついでに、夫の昔の絵も部屋に飾る。
別部屋で使っていた椅子も、棚の前に。
この椅子は天童木工のもので、夫が芸術大学時代、廃棄になったものをもらってきたもの。
そういう ちょっぴり歴史を感じるもので、これからの新しい空間をつなぐのも、なんだかいい。
今回の模様替えは、「好き」の見える化。
出来上がった空間は、棚が一つ増えただけなのに、見違えるほど私たちのお気に入りになっていた。
棚を眺めながら、夫婦で珈琲を飲む時間が増えた。
ちょっとした変化で、毎日ってものすごく良くなったりするんだな。
ほんの少しの工夫で、生活はお気に入りにできる。
私の「あったらいいな」を無言のうちに叶えてくれる夫に感謝しつつ、次は何が出来るかなと楽しみに思う。
そうそう。ちなみに、我が家では料理も夫の担当。
え?あなた何もしてないんじゃないかって?
…これからも率先して、口先を動かそうと思います。(ちょっとは手伝え!)
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芸術大学卒のフリーランスライター。AJINOMOTO PARK 主催の投稿コンテスト、新しい働き方LAB主催の書きものコンテストなどで、エッセイ入賞。ピアノ講師でもあり、画家の妻としての一面も持つ。ここでは、暮らしのなかで見つけた 美しさ にまつわるエッセイをお届けします。