フォトエッセイ

ジーンセバーグにみるエフォートレスな着こなし 【─Shining Moments:02 ─】

「ぼく、ゴダール好きなんです」

最近気に入っているおしゃれな美容院の、これまたおしゃれなアシスタントの男性が、私の髪を触りながらそう言った。

頭が追いつくまでに数秒かかり、私はやっと、ああゴダールかと理解する。
好きな映画のチョイスもおしゃれだ。

そういえばゴダールの映画を好きと思えたことはまだないなと、私は髪を乾かされつつ考えていた。
厳密に言えば、まだ何も理解できていない。

ジャン=リュック・ゴダールは、フランスの映画監督。ゴダールを筆頭とした若い監督、および彼らの作品は、ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)と呼ばれ、映画史において革新的な出来事であった。ロケを中心とした撮影や同時録音、即興演出による、低予算で作られた作品群は、今でも映画人たちに愛され続けている。

私は美容室から帰ってから早速、『勝手にしやがれ』を観直した。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ
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『勝手にしやがれ』は、ゴダールが1959年に製作した初の長編映画。ちなみに原案は、同じくヌーヴェルヴァーグを代表するフランソワ・トリュフォーだ。先のヌーヴェルヴァーグの評価を確固たるものにしたのが、この映画である。

・・・と色々と情報を並べてみたが、私はこのエッセイで映画談義をするつもりはない。(談義できるほど理解できてもいない)

ここで伝えたいことはただひとつ、ジーン・セバーグの愛らしさだ。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ
引用:Classiq

ジーン・セバーグはアメリカ出身の女優。アイコニックなベリーショート(セシルカット)を、雑誌などで見たことがある方も多いのではないだろうか。『勝手にしやがれ』の主演後ヒットに恵まれず、悲運な運命をたどるのだが、それを知って観るからか、この映画の彼女の輝きは他の女優にはないものがあるように思う。

私はこの映画のジーン・セバーグが、とにかく好きだ。愛らしくて、危なっかしくて、色っぽくて、知的で。「こんな女性になりたい」が詰まっているような感じがする。

ちょっと個人的な話をするが、どういう女性になりたいかと聞かれたとき、私は毎回決まってこう答えている。

「紅の豚のジーナとフィオを足して2で割ったような女性を目指しています」

つまり、瑞々しさと成熟さを併せもつ女性に私はとても惹かれてしまうし、自分もできればそうなりたい、ということである。贅沢な希望だけど。

しかし、『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグ(役名:パトリシア)は、まさにそんな姿を体現しているといえるのではないだろうか。

何がそうさせるのだろうかと、考えてみる。
そして私が辿り着いた答えが、彼女のもつ素直さだ。

自分の気持ちに素直に、ものを言い、振舞う。それが結果、天真爛漫さや母性など、潜在的に持っている さまざまな要素を 人に感じさせているのかもしれない。

ファッションにおいてもそうだ。彼女の装いはとても印象的で、それぞれのシーンで、素直に着ることを楽しんでいるように見える。

自分のために纏う、そういう当たり前の心地よさを、私はパトリシアを通して思い出していた。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ
引用:Classiq

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引用:Classiq

たとえば、ボーダーのタイトなトップスにプリーツスカート、ステンカラーコート、ローファー。
たとえば、ボーダーのワンピースに、白いハイヒール、巾着バッグ。

これらのファッションを、彼女は派手に化粧するでもなく、髪を整えるでもなく、そしてジュエリーを身につけるでもなく、ごく自然と着こなす。

この余白こそ、完成されたファッションといえるのではないだろうか。

「作りすぎない」の先に、『勝手にしやがれ』でジーン・セバーグが表現したような、エフォートレスな(気楽で気取らない)魅力があるのかもしれない。

ボーダーのタイトなトップス、プリーツスカート、ローファーというファッションを、真似てみる。今までなら、ここに大ぶりのパールネックレスとか、シルバーバングルとか、ビジューのピアスとかを足したくなっていたところだけど、一旦やめてみよう。

ジュエリー エッセイ 山田ルーナ
ジュエリー エッセイ 山田ルーナ
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足すばかりがファッションではない。たまには何にも着けず、自分の見聞きしてきたことや、学んできたこと、好きだと感じることを、ジュエリーの代わりにしたっていいのかもしれない。

一見アンバランスに見えるけれど、滲み出る雰囲気のようなもので、ファッションを補う。それがきっと、「フレンチカジュアル」「エスプリカジュアル」と呼ばれるものの、本当の意味だ。

この春は、自分の気持ちに素直に、エフォートレスな魅力を目指してみよう。

美容院でセットしたての髪もいいけど、無造作に結んで、化粧もそこそこに。そんな自分も、たまにはいい。
ベリーショートにする勇気はないけれど、気分はジーンセバーグ。

葉桜を眺めながら、私は今日も、軽やかに行く。