NHKの連続テレビ小説「おちょやん」(月~土曜朝8時~)。
「大阪のお母さん」と呼ばれた浪花千栄子さんをモデルに、大正から昭和にかけて女優の道を生き抜く女性の物語です。
主人公の千代(杉咲花さん)をめぐる泣き笑いのエピソード、生き生きとした登場人物たちから劇中劇まで興味深く、毎朝目が離せません!
今回は千代をめぐる大正時代の服装や、日本初のキャラクター商品?ともいうべきマンガ生まれの流行「正ちゃん帽」についてお届けします。
「おちょやん」千代の生きた大正時代
和と洋、ロマンとモダン。融合の魅力あふれる大正時代
大正時代(1912年~1926年)は短いながら、大正デモクラシーと呼ばれるように民主主義的な言論・運動が活発化し、現代につながるライフスタイルや大衆文化の基盤が生まれた過渡期の時代。
自由で開放的、和と洋が融合した独特のムードは今も愛される世界観です。
竹久夢二に代表される抒情的な「大正ロマン」ムードと、ロシア・アヴァンギャルドやアール・デコといったモダンな空気感。
工業化や流通・商業が飛躍的に発展する中、都市文化や自由恋愛も拡がり、先進的な人々はモボ・モガ(モダンボーイ、モダンガール)と呼ばれるようになっていきます。
とはいえ。かなり地域差や個人差も大きかった時代。
服装について見ると、実は男性の洋装化は明治時代から進展していたのですが、女性はまだまだ和装の人が多かったのです。
民俗学研究者・今和次郎の「東京銀座街風俗記録(1925年:大正14年)」によると、洋装の男性は67%なのに、女性はわずか1%!
大正時代はまだ洋装黎明期、洋服を仕立てていた女性は、良家の子女や進歩的な職業婦人、そして女優といった限られた人々だったのですね。
千代の着物姿「縞木綿」と「銘仙」
千代ちゃん17歳。
すっかりお茶子さんらしくなってましたね!
相変わらず「ほげたは達者」なようですよ…#杉咲花 #朝ドラ #おちょやん pic.twitter.com/fTyAlsvKJR— 朝ドラ「おちょやん」放送中 (@asadora_bk_nhk) December 13, 2020
道頓堀の芝居茶屋のお茶子・千代(杉咲花さん)は和服の普段着を着ています。
「縞木綿(しまもめん)」は、江戸時代から続く仕事着。町人階級に広く愛された縦縞(たてじま、今でいうストライプ)の柄は、さまざまな配色のものが作られ、「縞帳」というサンプルブックもあったそう。
哲学者の九鬼周造は『「いき」の構造』で、日本人の美意識「粋」をあらわすのはこの縦縞だと論じています。
いっぽう「おちょやん」ガイドブックの表紙で千代が着ているのは「銘仙(めいせん)」。
大正時代に女性の普段着として流行しました。
絣(かすり)やほぐし織りといった技法による柄は、輪郭がソフトになり独特のぼかし感が生まれたり、曲線が描けるなど表現の幅が拡大。西洋の影響をうけた洋風の配色や大胆な柄も多く、洋服感覚で着られる着物として「大正ロマン」の和装を彩りました。
人物と時代の描き方が秀逸な「おちょやん」
「おちょやん」はいま大正末期、過渡期の時代。
女優の高城百合子(井川遥さん)が道頓堀の華やかな風景とチンドン屋さんの「カチューシャの歌」(大正時代を代表する流行歌)を背に、黒い帽子とドレスでモノトーンの活動写真(当時はまだ舞台より地位が低かった)という未来に踏み出すシーンは象徴的でした。
千代が働く賑やかな宴席の「いま」と弟の記憶、過去の縁・新派の舞台のようなご寮人さん(篠原涼子さん)と役者の延四郎さん(片岡松十郎さん)の淡い色合いのお別れ…ひとりひとりの生きざまを際立たせながら、時代の大きな底流も感じさせる「その時」の描き方、とても美しかったです。
日本初のキャラクターから生まれた流行、「正ちゃん帽」!
「正チャンの冒険」と「正ちゃん帽」とは?
さて大正時代は新聞・雑誌の発達、活動写真から映画へ、ラジオ放送開始…現代につながるさまざまなメディアが発展した時代でもあります。
その中でキャラクター・マンガの原点と言われるのが、1923年(大正13年)からアサヒグラフで連載が始まった「正チャンの冒険」。日本のマンガではじめて「フキダシ」を使った作品としても知られています。
正ちゃんと相棒のリスの冒険物語。今見てもセンスのいい絵柄、ファッションもおしゃれ!
今でこそマンガ・アニメから流行が生まれることも珍しくありませんが、マンガから生まれた流行として日本初のキャラクター商品と言われるのが「正ちゃん帽」。
正ちゃんがよくかぶっていた、大きなボンボンが頭の上についた毛糸の帽子が「正ちゃん帽」と呼ばれ、子どもたちの間で大流行しました。
「正チャンの冒険」は今後「おちょやん」にも大きく関わってくるようなので、注目してみてくださいね!
POINT
- 「おちょやん」の大正時代は和と洋が融合した独特のムードが魅力
- 女性の洋装化黎明期。銘仙など洋服感覚の和服の普段着も人気
- 日本初?マンガのキャラクターから生まれた流行「正ちゃん帽」
「おちょやん」は脚本や演出がよく練られた丁寧な作品という印象です。
「家」のあつかいが重層的で面白いですね。破天荒な父親の家、「お家さん」のいる奉公先、芝居の一座という家業、「人形の家」…家は宿命的な存在で、頼りにも縛りにもなるくくり。
千代がどのように「お母さん」を演じるようになるのか、逆境でもバイタリティーにあふれた千代の人生をこれからも応援していきたいです。
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マーケティングディレクター、ジュエリーに詳しいライター、女性メディアライター、ジュエリーデザイナーなどによる専門チーム。