2020年、大ブームを巻き起こしている「鬼滅の刃(きめつのやいば)」。
2016年に吾峠呼世晴さんの漫画連載が始まり、2019年アニメ化されて人気の作品でしたが、映画・劇場版「鬼滅の刃」無限列車編(2020年10月公開)は公開10日間で興行収入100億円を突破。映画界でも新たな記録を打ち立てそうな勢いです。
新型コロナ禍の日本経済の救世主とも言われる「鬼滅の刃」。
物語の舞台が大正時代なので、どこか懐かしい和洋折衷ムードも魅力的です。
大人世代なら昔からおなじみの和柄である「市松」や「麻の葉」も大人気に!
今回は大人も魅了される「鬼滅の刃」主人公・竈門炭治郎と妹・禰豆子の衣装である着物の柄(模様)の歴史や意味について注目してみましょう。
※禰豆子の禰は 正しくはネ(しめすへん)です。
炭治郎の羽織の柄・「市松」模様とは?
市松模様は、市松さんが流行させたチェック柄
炭治郎の羽織の柄は市松模様(いちまつもよう)。2色の正方形を交互に配したチェック(格子模様)の一種です。
海外ではチェス盤の模様、チェッカーボード柄として知られています。
日本でも古来より使われており、石畳文(いしだたみもん)などと呼ばれていました。上下左右と途切れない柄は「永遠や発展拡大、繁栄を意味する縁起のよい柄」と言われています。
市松と呼ばれるようになったのは江戸時代中期。
歌舞伎役者の初代佐野川市松が身に着けた紺×白の石畳文の衣装が大流行、「市松模様」と呼ばれるようになったのです。
当時は歌舞伎役者の衣装の柄や色、帯の結び方などがファッショントレンドの源泉に!
もちろんまだ写真はありませんから、流行を伝えたのは、浮世絵の一種である「役者絵」。役者や衣装を魅力的に描いた絵師たちの活躍も見逃せません。
歌舞伎役者×役者絵→流行という流れは、コンテンツのかけ算で人気が広がる現代の流行とも相通じるものがありますね。
ルイ・ヴィトンのダミエも日本の市松模様?
江戸時代末期となる19世紀後半には日本の様子が西洋にも知られるようになり、ヨーロッパでジャポニズム(日本趣味)が大流行しました。
1854年にアトリエを立ち上げた旅行鞄職人ルイ・ヴィトン。息子の代になり、模倣を防ぐために新しいデザインを検討した時期と重なります。
1888年に誕生したルイ・ヴィトンのダミエ(Damier:フランス語でチェッカーボードの意味)ラインは日本の市松模様からのインスピレーションと言われています。ちなみにダミエの模様は職人の手描きだったとか!
その後誕生したモノグラムも、日本の家紋の影響と言われています。
ルイ・ヴィトンが日本で人気を博したのは、日本人がヴィトンの柄に共感を覚えるところがあったからなのかもしれませんね。
禰豆子の着物の柄・「麻の葉」模様とは?
麻の葉も江戸時代に流行!若い町娘の代表的な柄
禰豆子の着物の柄・麻の葉(あさのは)は日本の伝統柄。
正六角形を基本にした幾何学模様で、放射線が麻の葉のように見える柄ゆきです。
長く愛されてきた柄で「魔除け」の柄とも言われます。麻の丈夫さや成長の早さから、麻のようにすこやかな成長を願って赤ちゃんの産着や子どもの着物にも使われます。
ちなみにこの麻はリネンではなく日本で古来から使われていた大麻(ヘンプ)を指します。
民間で麻の葉柄を着る姿が絵画に現れるのは江戸時代から。
江戸時代後期、「眼千両」と呼ばれ大人気だった歌舞伎役者の五代目岩井半四郎。八百屋お七の役で「麻の葉段鹿子(あさのはだんかのこ)」の振袖を衣装にしました。
これが「半四郎鹿の子」と呼ばれ大流行!(「鹿の子」とは絞り染めの手法、点々で模様を表します。)
他の演目でも使われ、麻の葉模様は若い町娘の代表的な柄としても定着したのです。
歌川豊国作 八百屋お七
麻の葉が「魔除け」と言われる理由は?
麻の葉は、正六角形、正三角形、二等辺三角形、菱形…複数の図形を含んでおり、数学的にも非常に興味深い柄ですよね。
麻の葉模様はなぜ魔除けと言われるのでしょうか?
少し調べてみたのですが、歴史的には文様そのものが先に生まれていて、「麻の葉に似ているから」というのは後付けのようです。
もともと鎌倉・室町時代には、仏像や繍仏(刺繍で仏様や仏教を表現した図)に使われていた麻の葉の図形。独特の幾何学文様に宗教的な意味、神秘的な意味があったのではないでしょうか。
麻の葉は三角を何重にも重ねた図ともいえますが、この三角形、古代には魔や病そのものを指すこともあったそうです。竜や蛇の鱗(うろこ)ともいわれます。
「恐ろしいものを身に着けることで恐ろしいものを除ける=魔除け」という発想は古来からあります。
六角は亀甲(きっこう)という幸運を祈る形。麻の葉は魔を重ねながら魔を制し、強力な魔除けとなっているのかも…?
麻の葉はその柄じたいが、鬼に変貌しながらも鬼と戦う禰豆子のような存在なのかもしれません!
ちなみに、三角を連続させた文様は鱗文(うろこもん)と言われます。歌舞伎では鬼女や蛇の化身の衣装です。これも転じて、魔除け・厄除けの文様に。
鬼滅の刃の登場人物、「雷の呼吸」我妻善逸の着物の三角の柄は、鱗文のアレンジかも。
竜や蛇は雷との連想もできますし、眠って覚醒する?超越した力を秘めた善逸にぴったりかもしれませんね。
POINT
- 市松模様は歌舞伎役者の市松さんの名前から。ヴィトンの柄にも影響したと言われる
- 麻の葉は古来より魔除けの文様。こちらも歌舞伎役者から大流行
- 古くから続き江戸時代にも流行した柄が受け継がれ、「鬼滅の刃」で再び人気に!
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