2019年2月に公開された映画「メリー・ポピンズ リターンズ」(エミリー・ブラント主演、ロブ・マーシャル監督)。PLトラヴァース原作、第37回アカデミー賞5部門受賞の名作「メリー・ポピンズ」(1964)の半世紀ぶりの続編とあって大きな話題を呼んでいます。
前作に敬意を表し、すべてを綺麗に繋げながら新作としても見事に仕上がっている素晴らしい作品でした。
今回は「メリー・ポピンズ リターンズ」の衣装に注目してみました!
メリー・ポピンズ リターンズ(オリジナル・サウンドトラック)(日本語盤)
「メリー・ポピンズ」を成立させる衣装のポイントとは?
衣装の課題は「キャラクター」と「時代考証」
「メリー・ポピンズ リターンズ」の衣装担当はサンディ・パウエル。「恋におちたシェイクスピア」(1998)などで3度のアカデミー賞を受賞している実力派です。
ちなみにサンディも監督のロブ・マーシャルも人生で初めて見た映画が「メリー・ポピンズ」だったそう。運命的ですね!
オリジナル版の「メリー・ポピンズ」の設定は1910年、エドワード朝のロンドン。そして「リターンズ」の設定は1930年、世界恐慌真っ只中のロンドン。
実はこの20年間は、女性のファッションが大きく変化した時代なのです。
女性はコルセットから解放され、断髪し、スカートの丈は上がり、現代に通じるスタイルが市民権を得ていきました。
その中で年をとらないメリー、そして完璧なメリーを表現するのは実はとても難しいことだったのではないでしょうか。
キャラクターを成立させる最も大切なポイントとは?
時代を超えるメリー・ポピンズのキャラクターのコアはどこにあるのか…衣装として一番意識されたのは何でしょうか?
答えは「シルエット」。
人の心に残るキャラクター造型に最も大切なのは、特徴的なシルエットなんですね。
「帽子をかぶり、ウエスト部分が細くなっていて、足首までのコート、小さな足」
このシルエットはオリジナル版の時代の乳母(ナニー)の典型的スタイルで、原作本のイラストがインスピレーションの源です。
サンディ・パウエルはこのシルエットを生かしながら、1930年代の設定に合わせた調整を行い、魅力的なメリー・ポピンズの衣装を作り上げました。
丈感は少し上げ、当時流行していたドレーピーなケープ、1930年代調のデザインボタンなど、トレンドを巧みに取り入れています。だからメリー・ポピンズらしさを活かしつつ時代遅れにもなっていない、普遍的な印象が保てているんですね。
さらにメリー・ポピンズのシャープさを表現するため、サンディが取り入れていたのが「幾何学模様(ジオメトリック・パターン)」。
幾何学模様とは多角形や円、直線などの単純な図形をモチーフとして構成された模様のことです。
画面でもわかるジグザグのシェブロン柄、水玉、ストライプなど、柄on柄の大胆で絶妙なコーディネートが、モダンさとメリーの謎めいた奥行きのある存在感を際立たせています。
【シェブロンとは?】
山の形の模様。ジグザグ模様、織柄では杉綾の一種。
シェブロンとは本来軍服などにつけられる山形の紋章のことで、そこから山形の模様もシェブロンと言われるようになりました。
ディズニー映画だからこそ!衣装による2Dと3Dの融合
独創的!アニメーションの世界とリアルを結びつける2D衣装
さらに発想の楽しさを感じたのが、ロイヤル・ドルトンの器の中のアニメーション世界の衣装。
「メリー・ポピンズ」はもともとウォルト・ディズニーが熱望して製作された映画で、その大きな特徴が「実写とアニメーションの共演」です。
オリジナル版のアニメ内衣装も赤と白のコントラストが印象的でしたが、「リターンズ」ではなんと衣装の一部が二次元、手描きイラストになっています。
これは何度も手描きを試して水彩画風になったとのことで、アニメーションの世界に溶け込む効果と不思議なインパクトを与える独創的な衣装になりました。
ちなみにアニメーションキャラクターの衣装もサンディがデザインしたものをアニメーターとやり取りしながら完成させたそうです。2Dと3Dの幸せな融合ですね。
ディズニーの意思を受け止めながら、新しい表現を生み出そうとする作り手側の意欲を感じました。
女性のファッションの変化を語るキャラクター、ジェーンとトプシー
さて、メリーが変わらぬ姿として表現される分、他のキャラクターは1910年から20年間のトレンドの変化をよく表現しています。特に代表的な二人の衣装のポイントを紹介します。
ジェーン:女性の社会進出
子供から大人になったバンクス家の娘ジェーン(エミリー・モーティマー)。彼女はチェックのベストにハイウエストのワイドパンツなど、常にパンツスタイル。
第一次世界大戦(1914~1918)を契機に、1920年代には女性の社会進出が本格化したのですね。ジェーンは労働組合の仕事をする進歩的な女性として、現代にも通じるちょっとマニッシュなダッドスタイル(お父さん風)の服装をしています。
オリジナル版ではジェーンのお母さんも女性参政権の活動家だったのですが、ドレスにタスキをかけた姿はどこかユーモラスな意識高い系奥様という扱いでした。
でも娘のジェーンは、地に足をつけて労働者のために活動をしている職業婦人なのだろうと想像できます。
トプシー:アクセサリーの概念の変化
メリーのまたいとこ、トプシー(大女優メリル・ストリープが楽し気に演じています)。
トプシーのファッションは1920年代の部屋着イメージに、エキセントリックな味付けをしたもの。詩人イーディス・シットウェルや作家ナンシー・キュナードのスタイルをヒントにしたそう。コルセットから解放された自由なファッションです。
さらに特筆すべきなのはアクセサリー。
メリーは職業柄もあってほぼアクセサリーをつけていないのですが(帽子と手袋、ハットピンは完璧)、トプシーのアクセサリー使いはインパクト大。
絵筆やボビンをつなげた楽しいネックレス、どれだけつけてるの!と突っ込みたくなる指輪とバングル。服とピアスのフリンジ使いも自由さを演出しています。
「コスチュームジュエリー」が誕生した時代
トプシーのアクセサリーの素材は、時計の文字盤だったりベークライトなど合成樹脂製と思われるものもあります。
実はこの20年間は「アクセサリーの概念」も大きく広がった時代でした。
貴石や貴金属を使ったファインジュエリーがほとんどだった時代から、化学繊維や合成樹脂など人造の素材が多く市場化された経緯もあり、コスチュームジュエリーと呼ばれる遊び心のあるアクセサリーが市民権を得ていったのです。
ファッションやアクセサリーの概念が大きく変わった時代変化を下敷きに、自由な感性にあふれたトプシーは物語に楽しいアクセントをつけてくれましたね。
なお、日本の養殖真珠が世界に認められるようになったのもこの時代。銀行家(コリン・ファース)の秘書が真珠のアクセサリーをつけていたのが印象的でした。
物語のキャラクター衣装に求められる3つの要素とは?
ポスター/スチール写真 A4 パターン12 メリー・ポピンズ リターンズ 光沢プリント
他にも子どもたち、登場人物の衣装だけでも見どころが書ききれないほどの「メリーポピンズ リターンズ」。衣装をまとめると次の3つの要素が際立っています。
- キャラクターの性格や立ち位置に応じた衣装コンセプト
- ストーリーにリアリティを与える時代考証
- この映画ならでは!の独創性
このバランスが素晴らしいのです。
シーンごとの色彩感の変化も計算されており、全編を通して丁寧に考えられた美術・衣装の素晴らしさが堪能できます。
そして、踊りながら翻るスカート、幾何学模様や可愛い裏地といったテキスタイル、デザインされたボタンやバックルなど「きちんと作られた服」+「遊び心のある小物やアクセサリー」の楽しさを改めて感じる映画です。
優れた映画衣装は現実世界にも影響を与えるものですが、メリー・ポピンズのファッション、コーディネートは大きなインスピレーションになりそう。
「メリー・ポピンズ リターンズ」がお気に入りの映画になった方は、幾何学柄の組み合わせなどメリーのファッションを取り入れてみてはいかがでしょうか?
POINT
- 「メリー・ポピンズ リターンズ」はファッション好きにもおすすめ
- キャラクター造型に大切なのは「特徴的なシルエット」
- コンセプト・時代考証・独創性のバランスが素晴らしい。みんなメリー・ポピンズに影響を受けそう。
衣装について書きましたが映画自体が本当におすすめ(ディック・ヴァン・ダイクが最高)なので、ぜひ映画館に足を運んでみてくださいね!
ちなみに先にオリジナル版を見ておくと、「リターンズ」がより一層楽しめます。この画像、まさにメリー・ポピンズのシルエットを活かしたデザインですね!
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マーケティングディレクター、ジュエリーに詳しいライター、女性メディアライター、ジュエリーデザイナーなどによる専門チーム。