マーケティング

小さなブランド&お店のマーケティング物語 第5回:マーケティングと心理学

猫との会話でマーケティングを学ぶ、小さいお店&ブランドのマーケティング物語・第5回です。
路地裏のジュエリーショップを営むユイさん、前回の3C分析からいろいろ提案の工夫をはじめています。ただ猛暑のせいで少しペースダウン中…。
そんな時、店の入り口からいつもの猫が顔を覗かせました。

『おやおや、少しお疲れのようですね』

「あ~そうなんです、今日はちょっと勉強は辛い気分…」

『実は、私もです』

猫は店に入ると、気持ちよさそうに床に伸びてしまいました。

『本当は、いちばん大切なマーケティング戦略の話が次のテーマなのですが、今回は一休みしてちょっと人間の心理の話でもしましょうか』

「心理…心理学みたいな?」

『はい。現代はデータマーケティング全盛とはいえ、定量的な数字やグラフだけでは、なぜ?という部分はわからないこともあります。人間の心理や感情を読み解き、マーケティングに応用する視点も注目されています』

「けっこう気になる話題かも」

『本格的な心理学を学ぶのは大変ですが、いくつか特徴的な傾向を知っておくと面白いですよ』

人が思わず心惹かれる心理とは?

  • バンドワゴン効果

『最近商店街で、長い行列が出来ているの見ましたか』

「ああ、新しくできたスイーツのお店、流行ってますよね。行列があると、どんなものか知らなくても気になって並んでしまう人もいて、どんどん行列が伸びますよね」

『あるいは選挙の時にAさんが優勢だと聞くと、じゃあみんなに合わせてAさんに投票しようと思ったりしませんか?』

「それもわかります」

『この心理は、バンドワゴン効果と言われています。アメリカの経済学者ライベンシュタインが提唱した、時流に乗る、勝ち馬に乗るといった意味の行動心理学用語です。バンドワゴンとはパレードの先頭を行く楽隊車のこと。みんなが選んでいるから優れているはず、みんなが買っているから安心という心理効果、同調現象ですね』

「ある程度人気が出ると、流行に乗りたい!という人も出てきますもんね」

『お店の場合、集まっている、人気があるといった空気を醸し出すのは心理的に効果があるかもしれないですね』

  • アンダードッグ効果、判官贔屓

『一方で、弱い立場や不利な状況で健気にがんばっている人を応援したい、支持したいという気持ちもありませんか?』

「あるかも。そう言えばこの夏、甲子園で公立の農業高校が大人気になりましたよね!私も思わず応援しちゃいました」

『バンドワゴン効果の対義語として、アンダードッグ効果という心理効果があります。アンダードッグは闘犬の時の噛ませ犬といった意味ですが(犬も大変ですね)、この気持ちは日本では古くから判官贔屓(ほうがんびいき、はんがんびいきという場合もあり)という言葉で知られています』

「判官…って何のことですか?」

『源頼朝の弟、源義経のことです。鎌倉幕府の征夷大将軍となった兄より、兄に滅ぼされた悲劇の英雄である弟のほうが弱い立場として同情を集め、後世まで人気となりました。歴史を見ると、日本人は昔から判官贔屓の傾向が強いのかもしれません』

「たしかに。…それって、小さいお店にはいいことかもしれませんよね?」

『そうですね。小さいからといって虚勢を張るよりも、ひとりでコツコツ頑張っている姿を正直に伝えるほうが人の心を動かす場合もあると思います』

得したい?損したくない?時に不合理な判断をする心理とは?

 

  • プロスペクト理論

『ところでユイさんは、お金を得る喜びと失う悲しみ、同じだと思いますか』

「同じではないんですか?」

プロスペクト理論という、カーネマンとトベルスキーによって実験で見出された行動経済学の理論があります(カーネマンは後にノーベル経済学賞を受賞しました)。プロスペクトとは期待、予想、見通しという意味です。』

「実験で、人間の心理をたしかめてみたんですね」

『はい。人間は、利益の前では利益が手に入らないリスクの回避(確実に手に入る方)を選び、損失の前では損失そのものを回避する…簡単に言うと、どうも人間は<損をしたくない>という気持ちが強いようなんです。例えば1万円をもらう喜びより、1万円を失う心の痛みの方が大きいと感じるようです』

「どうしてでしょう?」

『遠い昔、人間に限られた食料しかない場合、不確実な獲物の話よりも今ある食料を失わない方が大事だと判断していたからではないでしょうか』

「ネットで何か買う時、つい最低価格を調べてしまうのも損したくない心理かも。定価で服を買ったあとセールになっているのを見るとすごくショックだし…たしかに、損したくない!損したかも!って気持ち、けっこう強いですね」

『リスクのある話になかなかチャレンジできない人は、この心理が働いているのでは。面白いもので、人間は損失を回避したいあまりに不合理な判断をしてしまうこともあるようです』

「そうか。損をしたくないと考えすぎて、チャンスを逃す場合もあるんですね」

『逆にお店のマーケティング視点で考えると、確実に達成できる有益な未来や、これを買って損はしないですよというイメージをお客様にうまくお伝えできるといいのかもしれません』

「なるほど…。まだまだ、いろいろな心理、調べてみたいです。猫さんがいつも言うように、人間って本当に不思議で面白いですね」

POINT

  • マーケティングに役立つ心理効果に注目してみよう
  • 勝ち馬に乗るバンドワゴン効果⇔アンダードッグ効果=判官贔屓
  • プロスペクト理論(損したくない!):人は不合理な行動をとることもある

「小さなブランド・お店のマーケティング物語」は月1回連載予定です。次回もお楽しみに!

Text by officenovel